本棚に本があふれてる

読書の記録と本にまつわるあれこれ

あかるい未来はきっとある~『夏への扉』

先日テレビをみていたら、

6月25日公開の『夏への扉ーキミのいる未来へー』の予告編が流れてきました。

原作はSF界の巨匠、ロバート・A・ハインラインの名作『夏への扉』。

SFにはまっていた中学時代に何度も読んだ、大好きな本です。

映画は舞台を日本に移し、時代設定もずらしているとのことで、

原作ファンとしては観たいような観たくないような。

いつものことですが、自分の(勝手な)イメージと違っていたらどうしよう、

と思っていたのですけど、あら、これはこれで面白いかも。

山崎賢人、清原果耶、藤木直人(まさかのロボット役!気になります…)など、

好きな俳優さんも沢山出てますし、観に行ってみようかしら、と思っています。

 

 

 

 

 でもまずは原作について。

 数あるハインラインの著作の中でも、特に日本で大人気の作品なのだそうです。

  

 

 

 

 

 

ぼくの飼い猫のピートは、冬になるときまって「夏への扉」を探しはじめる。

家にあるドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。

そして1970年12月、ぼくもまた「夏への扉」を探していた。

親友と愛人に裏切られ、技術者の命である発明までだましとられてしまったからだ。

さらに、冷凍睡眠で30年後の2000年へと送りこまれたぼくは、

失ったものを取り戻すことができるのか…

(『夏への扉』〔新版〕 ロバート・A・ハインライン 福島正実訳 より)

 

表紙からもわかるとおり、猫のピートがメインキャストの一人(匹)です。

犬派のわたしも、ダニーとピートのやりとりには萌えました。

猫好きな方にはたまらないことでしょう。

 

わたしはこの福島正実訳で読んだので個人的にはなじみがあり、

「文化女中器(ハイヤード・ガール)」なんて表記も懐かしいです。

 

 

小尾芙佐による新訳も出ているので読んでみました。

技術的な用語の訳がこなれていてわかりやすく、「猫語」もいいです。

 

 

 

でも、あくまで個人的な好みですが、

11章終わり近くのリッキィの「もしそうしたら…あたしを…」の問いと

それに対するダニーの答え、

それと最終章の結びの一文はやっぱり福島正実の訳が好き。

何度読んでもグッときます。

 

 

さて、30年後(西暦2000年)に目覚めたダニーが未来の社会

(わたしたちにとっては既に過去ですが)にとまどう描写。

数年ぶりに読み直してみると、改めてハインラインの未来予想の正確さに驚きます。

出版当時の1956年は言うまでもなく、

わたしが初めて読んだ1980年代初頭でも、

まだ空想上の夢物語だったと思われる発明の数々が

(実際には研究開発していたり実現していたものもあったのかもしれませんが、

当時のわたしの生活には全く縁がなく、想像もつかないものだったという意味です)

いつの間にか現実となり、当たり前に使ったりもしているではありませんか!

40年前に読んでいた時は、ハイヤード・ガールが掃除機というには優秀すぎて

「こんな夢みたいな機械、できるのかなあ」と思っていたものです。なにしろ

掃除機といえば重たいキャニスター型で、紙パック式ですらなかった時代のこと。

でも、今読むと、ハイヤード・ガールってルンバですよね!

 他にも、あ、これはタッチパネル/電子辞書/PC/CAD/大豆ミート?/アレクサ!

と思いながら読める楽しさは、時代が追い付いた今だからこそのものでした。

これで風邪さえ撲滅されていればね…。

 

 

 

21世紀での生活にも慣れてきたある日、ダニーは

「自分が発明したことになっているのに発明した記憶がない」設計図を見つけます。

なぜ?

ここからタイムトラベルの話が展開していきます。

 きっとここら辺がSF的には一番の見せ場というか山場なのだとは思うのですが、

残念ながら理数系の苦手なわたしにはちょっと理解しきれない部分もちらほらと。

それでも、科学オンチの人が読んでもちゃんと面白いのがまた凄いところ。

特に、タイムトラベルと「ある歴史上の超有名人」が絡んでくる面白さといったら!

その人物の一生が謎めいていることも相まって、なんだかとても説得力があり、

「いや、ありえるよね?ほんとにそうだったりして!?」

とドキドキしてしまうこと間違いないです。

 

なんとか1970年に戻ったダニーは、未来で得た知識を利用して、

今度こそうまく「2度目の」2000年を迎えようといろいろ画策します。

今までの出来事は全てこのためにあったのか、

この会話にはこういう意味があったのか、

と、ハインラインが張り巡らした伏線の巧みさにまたまた驚かされます。

そして再び冷凍睡眠で21世紀に「帰った」ダニーを待っていたのは…?

 

SFの巨匠ハインラインは、ストーリーテラーの巨匠でもあると実感できます。

明るい未来を予想させる爽やかな終わり方、最初にも述べた結びの一文は感動的です。

 

 

 

ただ、

昔読んだ時は、素直に明るい未来に夢を抱けていたのですが(若かったしね)

実際に21世紀を生きている人間としてこの本を読むとやや複雑な心境にも

なりました。

現在わたしたちは、ハインラインが描いたような科学技術の発展した社会、

便利で清潔で快適な社会に暮らしてはいますが、

未来は、いずれにしろ過去にまさる。誰がなんといおうと、

世界は日に日に良くなりつつあるのだ。

と心から実感できているだろうか…むしろ先行き不透明な不安を感じていたり

しないだろうか…と。

 

それでも、未来をどのようなものにするかはわたしたち次第なわけで、

夏への扉はきっとある、と信じることがまず大切なのでしょうね。

 

  

 

ちなみに、小説のイメージを曲にした

吉田美奈子作詞、山下達郎作曲・編曲の『夏への扉(THE DOOR INTO SUMMER)』

RIDE ON TIMEに収録されています)も是非聴いていただきたいです。

聴きながら読んで、小説の世界に浸っていたものでした…。

 

ライド・オン・タイム

ライド・オン・タイム

Amazon