本棚に本があふれてる

読書の記録と本にまつわるあれこれ

『妖精図鑑』~86パーセントの「見えない」存在

金木犀の香りがあちこちから漂ってくるようになりました。

朝晩も過ごしやすくなってきたし、もう秋ですね。

 

8月は暑さにやられ、他にもいろいろありましてちょっと疲れてしまって、

「充電期間」と称して読書三昧、Amazonプライム三昧の日々。

(「いつも充電ばかりしてない?」という家族からの突っ込みはスルーで)。

かなりチャージできたので、また少しづつブログに書いていきたいなと思います。

 

今回は、この本。

 

タイトルからして、世界各地の妖精の伝承を集めた本なのかと思ったのですが、

ちょっと違っていました。

可愛らしい見た目とは裏腹に、後味はほろ苦い。

いたずら好きの妖精が書いたのかもしれない、と思うような本でした。

 

ウィキペディアによれば、妖精とは

「神話や伝説に登場する超自然的な存在。人間と神の中間的な存在の総称」で、

大きさ、姿かたち、性質など、さまざまな伝承があるのですが、

「妖精」「フェアリー」といってまず思い浮かべるのは、背中に蝶のような羽をはやし

た愛らしい小人の姿ではないでしょうか。

 

シシリー・メアリー・バーカーの「フラワーフェアリーズ」が有名ですね。

 

 

わたしが子供のころ、森永ハイクラウンのおまけにフラワーフェアリーズのカードが

ついていたんですよ! 沢山集めていたのに一枚も残っていないのが残念です。

 

 

 

永田萌さんの描く妖精たちも大好き。

 

 

 さて、『妖精図鑑』に話を戻すと。

「この本は、エルシー・アーバーという植物博士が1925年に孫?のアナベル

預けた研究資料である」というところから話が始まります。

研究対象は、博士が世界中を旅して見つけた、羽の生えた小さな妖精たちです。

「妖精は本当にいる、よく探せば世界中のあちこちにいる」

「妖精には羽が生えていて、卵を産むけど哺乳類に分類できる」

・・・などなど大真面目に語る博士。

 

「科学者が小さな羽を持つ妖精の不思議な世界をまだ見つけていないからといって、

妖精がいないわけではないのですよ」

と言い切ります。

こういう考え苦手な人もいるでしょうけど、わたしは大好き。

 

妖精はかくれんぼの名人で、木々の葉や花びらを身にまとってカモフラージュし、

小鳥や小動物と共存しながらひっそりと暮らしているとのこと。

こんなところにこんな妖精が!と驚くほど、沢山の妖精が紹介されます。

花びらのドレスをまとって花の中で眠るヒナゲシの妖精はまさに親指姫!

 

最初に予想していた「図鑑」とは違ったけど、これはこれで面白い。

「妖精が見えるのは、そこにいると信じたときだけ」

なんていう文章に「そうそう!」と共感しつつ、大好きな世界を堪能していました。

 

ところが、最後のページの、アナベルへのもう一通の手紙で雰囲気が一変します。

ファンタジーだと思っていたのに現実に引き戻されるというか。

冒頭で博士が言っていた

「科学者が小さな羽を持つ妖精の不思議な世界をまだ見つけていないからといって、

妖精がいないわけではないのですよ」

という言葉には深い意味があったのです。

 

少々古い記事ですが、『ナショナルジオグラフィック』によれば

数世紀にわたる懸命な努力にも関わらず、地球上の生物種のおよそ86%は

いまだに発見されていないか名前が無いらしい。最新の推計によると、

地球には総計870万種の生物が生息しているという。 

つまり、分類済みの種は15%に届かず、現在の絶滅速度からすれば

多くが記録されずに姿を消してしまうだろう。

ナショナルジオグラフィック日本版サイト 2011年8月25日)

だそうです。

 

「妖精」とは、本書で語られてきた「翼の生えた小さな生物」だけでなく、

「いまだに発見されていないか名前のない86%の生物種」のことでもあって。

「妖精」に代表される未知の生物が本当にいるのか?

いるとしたら何に分類される?名前は?生態は?何か人間の役にたつ?

そんなことは本当はどうでもいいんです。

名前がなくても正体がわからなくても、人の目で見ることができなくても、

どこかに「妖精」がいると信じ、「妖精」の住める環境を守る。それが結果的に

わたしたち人間や他の生物全体を守ることにもなる。

この本は、それを易しく伝えようとしているのではないでしょうか。

 

考えてみれば、古くから伝わる伝承の中には現代に通じる真理や知恵が隠されているこ

とが多いです(だからこそ長く伝わってきたとも言えますが)。

妖精の伝承もその一つなのでしょうね。

環境保全を意識して生活するのはもちろんですが、それと同時に、

妖精(のような目に見えない存在)がいると信じそれを守ろうとする心、

古くからの伝承を大切に語り継ぐ心を大事にしていきたいと思いました。