本棚に本があふれてる

読書の記録と本にまつわるあれこれ

『そして、バトンは渡された』

 

 

2019年に本屋大賞を受賞した本作品。まだ読んでいなかったのですが、映画が公開され

たこともあり遅ればせながら読みました(映画は未見です)。

 

主人公の優子には父親が3人、母親は2人。家族の形は7回も変わって、高校生の今は血

縁関係のない父親と二人暮らし。

人間関係大変そうだなぁ、と思わずにはいられないですが、当の優子はなんだか楽しそ

うに暮らしていて、父親との関係は良好、友達にも男の子にも人気があり、全然不幸で

はないと言い切る始末。

失礼ながら、最初は「こんなうまい話、物語の中だけでしょ」と思いながらダラダラ

読んでいました。なんだか出来すぎでつまんない、もう読むのやめようかな…と。

けれど途中から、「ん?」と思い始め、ちょっと座り直し、そこから先は一気に読んで

最後は涙でページがぼやけてしまいました。

 

優子は本当に優しく健気で可愛らしい子。読んでいるうちに娘のように思えて抱きしめ

たくなりました。でも母親としては、どうしたって気になるのは梨花さんです。

同じ母親という立場で考えたら優子より梨花さんの方に共感するはずですが、正直最初

はよくわからない人でした。

梨花さんが優子と出会って間もないころ、出産とか乳幼児の子育てとか大変なことを全

部すっとばして8歳の子の親になれてラッキーだ、自分ももう一度8歳の子どもの生活が

体験できて楽しい、と言う場面があります。この言葉には子育て経験者はみな共感する

部分はあると思いますし(実際はいくつになってもその年歳なりの子育ての大変さはあ

るのですけどね)、梨花さんなりの優子への気遣いも感じられます。

でも。出産だけじゃなくて、その後もいろいろすっ飛ばしちゃってない?そんな厳しい

目で見てしまっていましたが…。

 

出来すぎな話、いい人しか出てこない。現実はこんな心の綺麗な人たちばかりじゃな

い、こんなに都合よくはいかない、毎日のように家族間の悲しい事件が起きているじゃ

ない…。それはそうかもしれません。

でもだからこそこの物語は胸を打つし、特に優子と森宮さんの関係性には、血縁関係や

家族という狭い枠組みを越えて、人と人との関係はこうであって欲しいという作者の願

いを感じます。

振り返って自分の家族関係はどうだろう?血縁関係に甘えてない?当たり前の存在にな

りすぎてありがたみを忘れてない?もう少しお互いを思いやる気持ちを持った方がいい

のでは?そんなことに気づかされた本でした。