本棚に本があふれてる

読書の記録と本にまつわるあれこれ

『九年目の魔法』

 

 

ダイアナ・ウィン・ジョーンズはイギリスの人気ファンタジー作家。

ジブリの『ハウルの動く城』や『アーヤと魔女』の原作者としても知られています。

わたしは上記のアニメ2作品は見たものの、今までこの方の本を読んだことはなかった

のですが、たまたまこの本を見つけ、タイトルに惹かれて手に取りました。

原題は ”Fire and Hemlock” (火と毒人参)。

この題名だったら「なんじゃこりゃ」とスルーしていたと思うし、表紙の絵もちょっと

怖そうで、正直あんまり好みではない雰囲気なんですが、タイトルが素敵で。

失われた時を求める少女の愛と成長をつづる現代の魔法譚

とあります。「魔法譚」という響きも素敵。

 

目次といい、各章の冒頭に引用されている文章(わかる人にはこの時点で「ああ」と思

う引用のようですが)といい、なんだか謎めいた雰囲気で物語は始まります。

19歳のポーリィは、ある時自分の記憶が二つあることに気づき、どちらが本当の記憶な

のか思い出そうとします。

そもそもの発端は10歳のポーリィがリンさんという男の人と出会ったことでした。

リンさんはポーリィの空想を嗤うことなく一緒に楽しんでくれ、沢山の本を贈ってくれ

ます。ところが二人の空想はなぜか現実のものになってしまい…。

現実と空想、過去と現在が複雑に絡み合って一体何を信じればいいのか。

ポーリィは記憶をたどりながら真実を見出そうとするのですが…? 

 

ポーリィの日常生活、ティーンエイジャーの女の子のちょっと突っ張って背伸びした感

じや、両親(毒親ぶりが半端ない)や友達との関係はとても現代風にリアルに表現され

ています。なので、空想がなぜか現実になる、想像上の人物と思っていた人が実在

する…という場面とのギャップが激しく、それだけに時空がねじ曲がっていくような、

自分の正気を疑ってしまうような、ゾッとする怖さがありました。(空想が現実になっ

て二人に襲い掛かってくる描写はアニメ『ハウルの動く城』を連想しました)。

何者かによって巧妙に隠された真実。その人の真の姿は何なのか、本当の目的は何なの

か?という謎めいた設定と、「本音とたてまえ」だとか「子どもの目に見えていた世界

と、大人になって見えてくる(理解できるようになる)世界は違う」という、実際にも

よくある二面性が一緒になって複雑な物語世界が展開し、謎を知りたくて先へ先へと読

んでいきたくなります。

最初のころのポーリィの言動には正直共感できない部分もあったのですが、後半では

自分の行動に責任を持ち、運命に立ち向かう強さを持つ女性に成長したポーリィを応戦

する気持ちになりました。

また、最初は子どもと大人という二人の関係が、だんだん恋愛対象として互いに意識し

始めるところや、ポーリィが空想や書物を通じて精神的に成長していくところ、自分で

も物語を書き、リンさんに読んでもらおうと送るとそっけない評価が返ってくる、とい

うあたりは、わたしの大好きなモンゴメリの『可愛いエミリー』シリーズのエミリーと

ディーンの関係を思い出してちょっと嬉しくなりました。

 

解説によると、この物語はイギリスの古い伝承である『詩人トーマス』と『タム・

リン』という物語がもとになっていて、さらにリンさんがポーリィに贈った本の内

容も踏まえているのだとか。リンさんが贈った本は古典ありファンタジーの名作あり

で、これらの本の内容を知っていればもっと楽しめる、という凝った仕掛けになってい

るそうです。この本知らなかった!という本が何冊もあったので、これから読んでみた

いと思っています。

 

古い伝承を現代風にアレンジした物語であり、

親からあまり顧みられない孤独な少女が自分の想像力と書物を通じて成長していく物語

でもあり、

そして少女と青年のラブストーリーでもあり。

伝承をもとにしているので、「そういうこと」なのか、という肩透かし感は少々ありま

すし、盛り上げるだけ盛り上げた割にはあっさりしたエンディングだなぁ、と思わなく

もないですが、逆にお約束の最後がありながらもそこまで読者をぐいぐいと引っ張って

いく展開には引き込まれます。他の作品ももっと読んでみたいと思いました。