本棚に本があふれてる

読書の記録と本にまつわるあれこれ

見つけたい物は何ですか~『ぼくを探しに』

新年度を前にやる気満々の人にも

新しい出会いを求める人にも

いやいや、早くもちょっと疲れ気味、という人にも

 

だめな人と

だめでない人のために

 

誰の心にも寄り添ってくれる優しい本です。

 

新装 ぼくを探しに

新装 ぼくを探しに

 

 

何かが足りない

それでぼくは楽しくない

 

 と思う「ぼく」が、足りないかけらを探して旅をするお話。

黒い線だけのシンプルな絵がかわいらしいし、

ユーモラスな表現にクスクス笑えるし、

さらっと楽しく読むことができます。

 

でも、読む人によって、またその時の状況によって、

いろいろな受け止め方もできるお話です。

そこは『おおきな木』と同じで奥深いです。

 

zoee.hatenablog.com

 

 

わたしは小学5年生か6年生の時にはじめて読んで、その時はてっきり

「理想の相手を探す旅」

だと思いました。ませた子どもでしたねー。

 

一方、『ぼくを探しに』という日本語タイトルからすると

探しているのは「理想の自分」、自分探しの旅のお話とも取れます。

理想の自分を見つけるのは難しい。

でも妥協しても幸せにはなれない。

希望を捨てずに探し続けよう。

きっといつか「ぼくだけの」かけらに出会えるから…というような

前向きなメッセージも感じ取れます。

わたしも大人になってからはずっとそのように感じながら読み、

頑張ってきたように思います。

 

英語のタイトルは ”The Missing Piece” 「足りないかけら」

なので、恋人とも、自分に足りない何かとも、自由に解釈できますね。

 

けれども今回改めて読んでみて気づきました。

「何かが足りなくて楽しくない」と思っていた「ぼく」ですが、

かけらを探しながら歌を歌ったり、虫たちと触れ合ったり、花の匂いをかいだり、

つらい旅の最中にも小さな喜びを見出すようになっているのです。

そしてピッタリのかけらが見つかった!

「ぼく」とかけらはそのあといつまでも幸せに暮らし…あれ?あれれれ?

 

この終盤の展開から、

「なりたい自分と本当の自分は違う。

  無理に何かを付け足さなくても、あるがままの自分でもいいんだよ」

というメッセージを感じたのでした。

もっと若い頃なら、こんな風に感じたとしても、そのあとすぐに

いや結局これは理想のかけらではなかったということ、

現状維持に甘んじるなんて努力が足りない!

本当の理想の自分を目指して頑張るのよ!

なんて自分を叱咤激励していたことでしょう。

でも、今持っているものに感謝して日々穏やかに過ごせることも

大切だよね、と思うようになったのです。

 

物語の終盤、「ぼく」は再び歌を歌い、蝶と戯れます。

わたしもそんな小さな喜びを見つけながら旅(人生)を続けたい。

そしていつか心が満たされた時が、かけらが見つかる時なのかもしれない…と。