第25回島清恋愛文学賞、第7回河合隼雄物語賞を受賞した、三浦しをんさんの作品です。
『ののはな通信』というかわいらしいタイトルと、
同じくかわいらしい小花模様の装丁に惹かれて手に取りましたが、
ガツンとノックアウトされました。
ののとはな、生い立ちはまるで違うけれど気の合うふたりの友情はやがて…。
私に魂というものがもしあるのならば、それはあなたのものです。
本書は、昭和59年(1984年)から2011年(平成23年)の間の、
ののとはな、ふたりの往復書簡だけで構成されています。
しかも実際に手紙をやり取りしていた期間は、高校2年生の1年間、大学生の2年間、
42、3歳からの1年ちょっと。
トータル5年足らずの、しかも手紙(とメール)のやり取りだけなのに、
野の花のように可憐な女子高生が、やがて大人の女性になっていく。
ふたりのキャラクターと生き方がくっきりと立ち上がってくることに圧倒されます。
また、やり取りしていた期間の年齢設定が絶妙です。
学生時代は毎日べったり過ごしていた友達とも、卒業後はなんとなく疎遠になり、
就職や結婚といった人生の節目でまたちょっと交流するもそれぞれの生活が忙しくて
連絡が途絶えがちになり、40代になってようやく仕事や子育てが落ち着いて、ふと
昔の友人が懐かしくなる…。誰にでもよくあることですよね。
けれどこのふたりの場合はそんな単純なものではなく。そのギャップがすごいです。
更に このふたり、わたしとズバリ同世代の設定なので、当時の世相なども懐かしく、
まるで自分の人生を振り返るような不思議な感覚にとらわれながら読みました。
女性の生き方や多様性についての考え方、時代背景など、この時代設定だからこそ成立
した物語なのではないかと思いますが、もっと若い人や男性が読んだらまた違う印象を
もつのかもしれません。
高校時代のふたりのやりとりは、最初のうちは本当に他愛なく、青春真っただ中だなぁ
キラキラしてるなぁと懐かしく読んでいました。
ですが次第に若いふたりの感情のほとばしりにちょっと息苦しさを覚えたというか、
否定するつもりはないけれどそこまで思いつめなくても、とこの時点では感じてしまい
ました。
そして2度目の文通が終わるのがちょうど昭和の終わる時。また絶妙な設定です。
当時多くの人が感じたであろう「一つの時代が終わった」という喪失感と、
ののとはなの「自分の中の、とても大きなもの」が終ってしまった喪失感が重ね合わさ
れてとても切なくなります。
さらに20年後。
別々の人生を歩んでいたののとはなは再びやりとりを始め、やりとりを重ねるうちに自
分の心に正直になっていきます。
もともと、私たちは何ももっていないのよ。この体と、心以外は。だったら、それが
発する声に従って生きるほかないじゃない?簡単で、単純なこと。
誰かに批難されるかもしれない、笑われるかもしれない、今までの安寧な生活をなくす
かもしれない。
それでも信じる道を進むふたり。その裏には互いへの深い愛情がありました。
ここまで読んでようやく、ふたりの関係性を理解できたように思います。
ふたりの愛が、もっと広い愛に昇華されていく後半部分は涙をこらえつつ読み、
ののからはなへの最後の手紙にはこらえきれず号泣。究極のラブレターです。