北海道小樽にある小さな喫茶店「シトロン」。自称「小説家」の安田は、
店の経営を叔母から引き継ぐこととなったが、引き継いだものはそれだけではなく…
喫茶店で開催される小さな読書サークル。課題図書は『だれも知らない小さな国』。
この設定を知っただけで、条件反射的に手に取ってしまいました。
大好きな『だれも知らない小さな国』をどんなふうに読んでいくのだろう?と
ワクワクしながら。
安田の引き継いだ喫茶店で開かれる読書サークル「坂の途中で本を読む会」は、
会員6名、平均年齢はなんと85.3歳!
コロナのために活動を休止し、3年ぶりにようやく喫茶シトロンに集まるというところ
から物語が始まります。
なんだか一癖も二癖もありそうな、にぎやかなご老人が一堂に会す場面がこの後も何度
も出てくるのですが、それがとても楽しいのです。
まともなのかボケているのか一瞬わからない揺れ動く感じ、お互い好き勝手なことを
言い合い本筋からあちこち脱線するかと思うとまた唐突に話がもとに戻ったり、急に
泣き出したり怒りだしたり。それは同年代の自分の親たちを見ているかのようで、
時にはイライラさせられたりすることもあるのですが、「なんもなんも」「そ
うだよう」「~なんだヮ」といったうたうような柔らかな北海道ことばのおかげか、
なんとなくほっこりしてしまうし、時折発せられる鋭い一言には、長く生きてきた人な
らではのユーモア、達観、諦念のようなものも感じます。そしてそれを穏やかに傾聴で
きる安田もなんかいいひとだなぁ…でも『だれも知らない小さな国』は?(←せっかち
なわたし)。
そんなこんなでようやく話がまとまっていき、
全員一致で安田を新メンバーとして迎え、20周年記念誌の編集も依頼。
安田も成り行きにおどろきつつも嫌とは言わず、それどころかかなり前向き。ほんとい
いひと。
安田への自己紹介を兼ねて会の成り立ちを語る会長の言葉がとてもいいです。
(妻の死を)救ってくれたのが本でした。(P28)
「よくあるじゃないですか。本を読んでると、特にどうということのないシーンや
描写でも、それがきっかけでごく個人的な思い出が連想されること。
記憶に埋もれていたこども時代のある瞬間や、家族とのなんでもない会話なんか
が、渡り鳥みたいにはるばるとやってきて、ここに留まるというような。(中略)
そんな話もあたくしは妻としたかったですよ」(P28)
そうそう、本を読んでいるとこういう瞬間がありますよね…。
もはや心は「坂の途中で本を読む会」の新メンバーになった気分のところで、
ようやく、『だれも知らない小さな国』を読み始めることとなり。
待ってました!さあどう読む?
と、腕まくりしたところで、え?と虚を突かれました。
・「こぼしさまが住むという、「近よってはならない、えんぎの悪い山」=「死」
・こぼしさま=村人から「「死」への思い煩いを遠ざける役目をしたのではないか
・こぼしさま=<おみとりさん>=安らかな死を看取ってくれる存在=死は怖いもので
はない
わたしは『だれも知らない小さな国』には明るい生命感と未来への希望しか感じていな
かったので、「死」が真っ先に出てくるこの解釈は非常に予想外でした。
けれども、高齢者ゆえ、常に「死」がそばにある。
無事20周年を迎えた読書会、でもいつまでこのメンバーで続けていけるのだろうかとい
うひそかな怖れと不安がある。
読む人によって、同じ本でも受け取り方が違うということを改めて感じました。
一方、安田も『だれも知らない小さな国』を読むことで、あるイメージが
頭に浮かんできます。前髪を厚く下した少女の横顔。この少女は…?
これは『だれも知らない小さな国』の、あの再会がここにも!?
と、『だれも知らない小さな国』との関連を微妙に匂わせつつ、
その一方で20周年記念誌の発行、まちゃえさんの息子の謎、メンバーに訪れる変化、
などのいろいろなエピソードが詰め込まれ、ページをめくる手が止まりませんでした
。正直、『だれも知らない小さな国』を読んでいなくてもじゅうぶん面白いと思いま
す。
けれどマニアとしては、やはり決定的な共通点を見つけたいと思いながら読んでいて…
安田が「坂の途中で本を読む会」の行く末を見届けようという決意を固めたところで
気づきました。
「坂の途中で本を読む会」は、安田が思いがけず見つけた「小さな国」であり、
心優しい老人たちは国を守るコロボックルであり、ともに国を守る仲間を探していて。
選ばれた安田はその小さな国の番人となることを決意する…ということなのではないか
と。
そして最終章のタイトルは「おぅい、おぅい」。
『だれも知らない小さな国』の「ぼく」が「おちびさん」に呼びかけるかけ声。
幼いころの安田を呼んでいたのは…?
『だれも知らない小さな国』のエンディングで、「ぼく」は
「矢印の先っぽのコロボックル小国!いつまでも静かな明るい国でいてくれ」
と心の中で呼びかけます。
「坂の途中で本を読む会」もまた。
最高の仲間と過ごす最高の時間が毎月第一金曜日に待っている
(P248 )
いつまでも、続いてほしいものです。
ひとりで本を読んでいたのに、大勢の人と読書会をしているような気持ちになって、
本当に楽しい時間でした。
好きな本についてのあれこれを本好きな仲間と語る会、もしあったら参加してみ
たい…!?
いや、わたしはリアルで話すのは照れがあったりしてちょっと苦手なので、
やっぱりブログで「ひとり読書会」をしているほうが似合っているかもしれないです。
(過去記事)









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