本棚に本があふれてる

読書の記録と本にまつわるあれこれ

『クリスマス人形のねがい』

 

 

きれいに飾られたおもちゃ屋さんのショーウインドウをのぞき込む少女。

クリスマスプレゼントを選んでいるのでしょうか?

 

『人形の家』の作者ルーマー・ゴッデンの作品だけあって、主人公のひとりホリーは

お人形。赤いドレスに赤い靴、緑のペチコートとソックスのクリスマスカラーを身にま

とっています。こんな可愛いお人形、プレゼントにもらえたらどんなに嬉しいでしょ

う。

 

クリスマスを前にして、買ってもらおうと武者震いするおもちゃたち。

おもちゃたちが「クリスマスには、小さな男の子か女の子をもらえるのよ」と考える

ところがほほえましいです。あたたかい家庭に加わって、こどもたちにもみくちゃに

可愛がってほしい。自力では動けないし願うことしかできないけれど、強く願えば

きっと素敵な家庭に行けると信じて願い続けます。

 

実際のところおもちゃ屋さんにお人形やぬいぐるみを買いに行き、同じものがいくつも

ある中から選ぶ時って、顔つきはみんな似ている(というか同じ)なのに、少しでも気

に入った子を選ぼうとしてじっくり眺めたりしませんか?また、可愛い(かっこいい)

かもしれないけど自分では絶対に買おうとは思わないお人形、昔から家にあるけれど、

どうにも好きになれないお人形もいませんか?

もしかしてお人形の声なき願いや相性を感じとっているのかもしれません。

 

もうひとりの主人公アイビーは児童養護施設に暮らす6歳の女の子。クリスマスに帰る

家もなく、別の施設に預けられることになりますが、「おばあちゃんのとこへ行く」と

いう信念のもと行動します。

幼い子どもが自分の言ったことを本当だと信じ込んで行動することってよくあります

し、自分の運命は自分で切り開くタイプの女の子、と言えるかもしれません。

しかし親目線で読むと、施設の人がほんの6歳の子どもを一人で電車に乗せるなんて

ありえない!アイビーも知らない街を一人でうろつくなんて危なっかしいったらない!

現代ではありえない!とちょっとハラハラしながら読むことになりました。

アイビーは「おばあちゃん」に会えるのでしょうか?

そしてホリーは小さな女の子をもらえるのでしょうか?

 

作者は、「これは、ねがいごとのお話です」と言っています。

強く願ったホリーには幸せが訪れる。

そしてフクロウのぬいぐるみアブダカダブラのように、真摯な願いを嘲笑い、他のひと

の幸せが妬ましくて仕方がない人物(『人形の家』のマーチペーンとかぶります)

にはそれなりの結果が待っている。

ここでひねくれたわたしはつい、でもアイビーはただ願っているだけじゃなくて自分か

ら行動したよ、ジョーンズさんのおくさんも、などと思ったりもしたのです。けれど、

心からの願い、本当に叶えたい望みがあるとき、その思いが原動力となって行動し、頑

張れることは確かにあるので、「願えば叶う」ともいえるのかもしれませんね。

 

訳者の掛川恭子さんのあとがきによれば、

原題は「ホリーとアイビーの物語(The Story of Holy & Ivy)」で、これは主人公二人の

名前であると同時に、"The Holy and the Ivy" という有名な讃美歌の題名からとられたも

のなのだそうです。表紙のヒイラギ(ホリー)とツタ(アイビー)の絵も、クリスマス

の飾りであり、二人の象徴でもあったのでした。物語と挿絵、双方の魅力を堪能できる

美しい絵本です。