瀬尾まいこさんの本をまた読みました。
主人公加賀野は作家。デビュー作は大ヒットしましたが、今はなかなか次のヒット作が
書けず家にこもりがち。
「明日がもっとすばらしいことをきみはぼくに教えてくれた。
今日はきっときみを知る日になる。」
自分が書いたセリフが空しく響く日々を過ごす加賀野のもとに、一人の若者が突然やっ
てきて…?
この加賀野、人づきあいが苦手で社会的常識にも欠けていて、わたしは同世代というこ
ともあり「その年でそれはないでしょ(苦笑)」と半分呆れながら読んでいました。
でも本人はあくまで真面目で一生懸命なので、次第に「こんな人もいるかも」となぜか
憎めなくなってきます。
一方若者の方は、話し方はいかにも今どきの若者風でチャラい感じですが、常識をわき
まえたなかなかのしっかり者。加賀野はもちろん、ご近所の人たちとも自然に打ち解け
ていきます。いやぁうちの子たちもこんな風に如才ないといいんだけどねえ、とちょっ
と母親目線になっていきます。このあたりの日常の描写はとても穏やかで心地いいで
す。
さて、若者に振りまわされながら、少しづつ変わっていく加賀野。
引きこもり気味の男性がだんだん外の世界に出ていくお話?このまま穏やかに終わっ
ていくのかな、それでもまあまあ面白かったな、と思っていたところ、最後に物語が大
きく展開するのですが…。
「勇気と勢いをもって動いたって、小説みたいにドラマティックにはいかない。
現実は滑稽でまどろっこしいものなのだ」
と肩を落とす加賀野。そう、現実は厳しいもの。
でもね。そこはやはり小説です。
違う視点から語られることで、それまで語られてきた物語が全く別の見え方で鮮やかに
立ち上がってくる終盤はとてもドラマティックでした。