太陽が昇るよりなお東。月が沈むよりなお西。つまりは「この世の果て」。
ちょっと前に読んだ『児童文学の中の家』で紹介されていて知りました。月明りを背に
そびえたつお城。雪と氷に閉ざされた最果ての地を一人旅する少女。深井せつ子さんの
挿絵が素晴らしく、それになんて素敵なタイトル!でも読んだことないなぁ、いつか読
んでみよう…と思っていました。
ところが『九年目の魔法』を読んだらまたまた言及されていて。あらすごい偶然、これ
はもう「読め」ということですね。
アスビョルンセンが集めたノルウェーの民話集です。
表題作の他にも、グリム童話や日本の民話にもあるような、痛快な話、ちょっとブラ
ックな話、切なくなるような話が沢山載っていて楽しく読みました。
『羽衣伝説』や『三枚のお札』によく似た話もあり、違う国なのに似たような話がある
のはどうしてだろう、といつも思うのですが、国や時代が違っても人間の願うこと、
恐れること、後世に伝えたいことって実はそんなに変わらなくて、同じ話が少しづつ
変化しながらも長い間語り継がれているということなのでしょうね。
『太陽の東 月の西』は最後にのっています。
白熊のお嫁さんになった女の子が、相手の正体を知りたいと思ったばかりに離れ離れに
なってしまい、白熊(実は魔法にかけられた王子様)を探して「太陽の東、月の西」
にあるという王子の城まで旅をするお話。
わたしがまず思い浮かべたのは『美女と野獣』でしたが、もっと古く帝政ローマの作家
アプレイウスの『黄金の驢馬』の中の『クピドとプシュケ』という逸話にも似ているそ
うです。
女の子の長い旅は王子の愛情を疑ったことへの罰、王子への愛情を確かめるための試
練、ということなのでしょう。そして民話によくある3回、4回と繰り返される類似のエ
ピソード(しかもこのパターンが更に2度3度繰り返される)が目的地への距離感や試練
の困難さ、そしてそれにもくじけない女の子の強い想いを強調しています。
また、「太陽の東 月の西」という表現や、東風、西風、南風、北風に連れて行っても
らってやっとたどり着く、というあたりは、さすが帆船を操って北の海を漕ぎまわった
ヴァイキングの国のお話だなぁと思いました。