画家・絵本作家の安野光雅さんが2020年12月24日、94歳でお亡くなりになりました。
初めて出会った安野さんの本は『ふしぎなえ』
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小人が階段の上を歩いているのをたどっていくと、あれ?
さかさまになってる?またもどってる?…なんだか頭がぐるぐるしてきたよ…
本をさかさまにしたり、横向きにして見たり、
ページの隅々までじっくり見るなんて、それまで読んだ本にはなかったこと。
『あいうえおの本』も凝っています。
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「あ」のページには安野さんお得意の木組み細工の「あ」を中心に
「あ」で始まる物の絵が精密に、びっしりと描かれています。
「く」の文字に「くぎ」が「くいこんで」いたり、
「さ」のページ(木組み細工の木は「さくら」かな?)では
「さる」が「さんりんしゃ」で「さかだち」していたり。
見るたびに新しい発見がありました。
父親はこういう知的な遊び心を刺激する「不思議系」が好きで
一方母親は抒情的な『旅の絵本』のシリーズが好きだったので、
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実家には安野さんの本がたくさんありました。
どの本も好きだったけど、中でもわたしのお気に入りは、
『野の花と小人たち』でした。
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すみれ れんげ ほたるぶくろ かわらなでしこ なわしろいちご ひがんばな…
ちょっと懐かしい感じの野の花と、そこで遊ぶ小人たちの絵。
のぶどうを摘んだり、やまのいものつるでブランコをしている小人の姿が、
当時大好きだった『床下の小人たち』シリーズや『木かげの家の小人たち』と
重なって、あれこれ想像しながら飽きずに眺めていたものでした。
子どもが生まれて、少し大きくなったころ、
『はじめてであう すうがくの絵本』
をプレゼントしてもらい、久しぶりに安野さんの絵に再会しました。
相変わらず精緻で、ちょっと不思議な絵。懐かしの小人たち。
え?いきなり「なかまはずれ」の話? 数字は?足し算は?
私の思っている数学(算数)と全く違う「すうがく」の話に、
久しぶりに頭がぐるぐる回る感覚を味わいました。
算数だけでなく、他の学問全般に共通する考え方を教え、発見や創造の喜びを分かちあい、たまには迷路にさそいこんでくやしがらせる、そんなおもしろい本はできないものか、と考えたのです。あとで気がついてみたら、それは数学のことでした。
安野さん、まんまと迷路に迷い込んだ読者がここにも一人おりますよ…。
その後またしばらく安野さんの本から遠ざかっていましたが、
最近になってこの本に出会い小躍りして喜びました。
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大好きなローラの物語が安野さんの挿絵で読めるなんて!
オオカミや熊のいる大きな森の中に建つ丸太小屋、海のように広い青い湖、
月の光をあびてたたずむ牡鹿の姿。
息をのむような美しい挿絵の数々です。
ローラのお人形、おばさんたちの豪華なドレス、刺繍の壁飾りなども
温かいタッチで、まるで見てきたかのように描かれています。
また、家の構造、燻製小屋、チーズ作り、稲刈り、雑穀、ランプ、銃、などの
昔の道具や機械の仕組みは安野さんの鋭い観察眼で精緻に描かれていて、
なるほど、ランプはこういう構造をしていたのか、
銃の弾込めってこういう仕組みなのか、と
今まで知らなかった新しいローラの世界に出会うことができました。
他にも、 『赤毛のアン』『メアリ・ポピンズ』『あしながおじさん』
などの挿絵を次々に手掛けていたと知りました。
最晩年まで変わらぬ情熱で絵を描き続けておられたのですね。
どの本もわたしの愛読書なので嬉しいけれど、
もう新しい作品に会うことはないのだと思うととても残念です。
ご冥福をお祈りします。