本棚に本があふれてる

読書の記録と本にまつわるあれこれ

『だれもが知ってる小さな国』

だれも知らない小さな国』の作者佐藤さとるさんが2017年に亡くなられたとき、

とても悲しくて。

ああ、もうコロボックルのお話は終わってしまったんだ、

後は自分の心の中で大事に温めていくだけだ、と思っていました。

ところがうれしい驚きで、有川浩さんが続編を書かれていたことを知りました。

しかも村上勉さんの挿絵で。

 

 

だれもが知ってる小さな国

だれもが知ってる小さな国

 

 

 

有川浩さんと言えば、『図書館戦争』『空飛ぶ広報室』『三匹のおっさん』など、

多くの作品で賞を受賞したり映像化も次々にされるという人気作家。

読んでも観ても面白くて、好きな作家の一人です。

その有川さんが書くコロボックルの物語。

わー嬉しい、すぐにでも読みたい!と思う半面、

わたしの大好きな、あの世界観と違ってしまっていたらどうしよう?

このまま読まないで、「わたしの」コロボックルの世界に浸っている方がいいのでは?

など屈折したオタク心を胸に、恐る恐る手に取りましたが…

 

はい、大正解でした。

コロボックル物語』のファンなら、「だれもが知ってる」小さな国は健在でした。

 

まずしょっぱなからだれも知らない小さな国』のオマージュです。

 

二十年近い前のことだから、もう昔といっていいかもしれない。

ぼくはまだ小学校の三年生だった。 

 

そっくり同じ文章で物語が始まったことに感動しました。

 

この後も主人公が語るスタイルで話は進みますが、

その語り口も『だれも知らない小さな国』とそっくり!

一気に気持ちを持っていかれます。

さらに主人公の名前が「ヒコ」と「ヒメ」。

これでもう、二人がコロボックルと何らかのかかわりを持っているとわかります。

そしてこの二人は「はち屋(養蜂家)」の子。これまたコロボックル物語に出てくる

「くまんばち攻撃」や「ミツバチぼうや」を思い出させます。

他にも男っぽい話し方の先生や、黒髪にぱっちりお目目、しっかり者のヒメちゃん。

「こんな人いたいた!」と、どんどんコロボックルワールドに引き込まれていきます。

 

こんな風に『コロボックル物語』の雰囲気は濃厚に受け継ぎつつも、

物語の舞台は現代なので、まったくの続編というわけではなく、

おなじみの登場人物は出てきません。

主人公のヒコもゲーム大好きな現代っ子

そんなヒコの前にハリーという一人のコロボックルが現れますが、

こちらも名前からしてイマドキの若者風だし、

ヒコの反応(すげーレアキャラゲットしちゃった!的な)も、

いかにも現代っ子ぽくてクスッと笑えます。

 ハリーと 友達になるために、だれにもしゃべらない、と約束するヒコ。

でも、自分が見たものは一体何なのか気になって仕方がない。

秘密は守らなきゃいけないけれど、本当のことを知りたい。

「小人って、本当にいるのかな」うっかり漏らした一言に、

本好きのヒメちゃんが教えてくれたのが『だれも知らない小さな国』でした…。

 

主人公が『コロボックル物語』を読んでコロボックルについて知るという展開も、

小さな国のつづきの話』と同じ。

  『コロボックル物語』シリーズが作中でとても効果的に使われています。

 

 

ヒコとハリーが少しづつ友情を深めていく中で、

 今作でも、コロボックルの静かな生活が脅かされそうになります。

ヒコはどうやってコロボックルを守るのか? というストーリーと並行して、

ヒコとコロボックル、

ヒコとヒメ、

ヒコとミノルさん、

ミノルさんとトシオさん、

コロボックルとミノルさん…

登場人物それぞれの関係を通して、『コロボックル物語』の根底にある

「異質な物への理解と協調」というテーマも丁寧に描かれていきます。

 

さて、ハリーはなぜヒコの前に現れたのか?

最後の怒涛の種明かしはさすが有川さんです。

「やっぱりね」も「そうだったのか!」も(タイトルの意味も含めて)ありますが、

きっちり伏線が回収されて気持ちのいい爽やかな読後感です。

 

そしてもう一つの、誰もが抱く疑問、

「そもそもコロボックルは本当にいるのか?」という問いに対しても、

有川さんは登場人物の一人に語らせる形で素敵な答えを用意していました。

「信じている人には見える。サンタクロースと一緒だね」

 

 有川さん、「私たちに、もういちどコロボックルを、ありがとう!!!」

 

 

 

 

(表記の誤りを2021年10月28日に訂正しました)